婚姻期間20年以上の配偶者からの贈与住宅は遺産から除外
平成30年7月の国会で可決・成立した民法の改正案の中で、長年連れ添った配偶者を保護できる規定が創設されました。
婚姻期間が20年以上にわたる夫婦間において、自宅の贈与等が行われた場合は、遺産分割の計算をする際にその自宅を遺産に組み入れなくてよいという被相続人の意思表示があったものと推定するというものです。
例えば、20年以上連れ添った妻に対して、夫が生前に自宅を贈与してその後に亡くなった場合、現行規定ではその自宅も遺産分割の算定対象となりますが、新たな規定によると、その自宅は夫の意思により遺産分割の対象にしないということができるようになります。
現行規定の問題点
現行規定では、配偶者等の相続人に対して贈与等が行われた場合には、遺言などで遺産に含まない旨を明示しない限り、原則として、その贈与を受けた財産も一旦遺産に組み戻すことになります。その上で、それぞれの相続分を計算し、その相続分から贈与を受けた分を差し引いて、遺産分割における取り分が決まることになっております。
つまり、夫が贈与等を行ったとしても、それは「遺産の先渡しをしたもの」として扱われ、妻が最終的に受け取れる遺産額は、結果的に贈与等が無かった場合と同じになってしまいます。
この場合、配偶者は自宅の贈与を受けても預金等がほとんどもらえず、老後の生活が厳しくなるという問題がありました。
今回の民法改正での変更点
そこで、上記のような問題を解消するために、新たな規定を設けて、婚姻期間が長期にわたる夫婦間で自宅の贈与等が行われた場合には、遺産分割において「その自宅を遺産に組み戻さなくてよい」という旨の被相続人の意思表示があったものと推定するものとしました。
これにより、婚姻期間20年以上の夫婦間における生前贈与や遺言によって贈られた自宅は、遺産分割の計算対象外となり、この自宅以外の遺産について遺産分割がなされることになりますので、配偶者が遺産分割においてより多くの遺産をもらえるようになったわけです。
新しい規定の注意点
上記の新しい規定に関し、次の点で注意が必要となります。
法律婚のみであり、事実婚や内縁関係は対象外
「婚姻期間20年以上」が対象となっておりますが、ここで言う「婚姻」は法律婚を指しております。
そのため、事実婚や内縁関係が20年以上続いていたとしても、この規定の適用を受けることはできません。
施行期日が未定
この新しい規定は、現時点ではまだ施行されておらず、施行日も未定となっております。
この新しい規定は、以前に紹介した「配偶者居住権」と同じように、今回の民法改正で創設された規定で、夫婦の一方が亡くなった後に、残された配偶者がその後の人生で困窮しないようにするという狙いがあります。
法律事務所にいると、遺産分割や相続に関する争いごとを目にする機会がたくさんありますが、遺産を法定相続分で分けるために実家を売却しなければならなという話は、実際に少なくありません。
長年連れ添った夫婦なら、自分が亡き後も、配偶者が安心してその後の生活を送ってくれることを望んでいると思いますので、この規定の早く施行されて、一人でも多くの配偶者が救われることを期待しております。